一人異国の地ロンドンへ―――アハノールとクリスタルパレスの変化の年
9/4
「ただピッチに出て、いつものように、子供のようにプレーするだけだ。それだけ。」
I'm just gonna go in the pitch and play like I always play, like a child, and stop.
(動画からの引用・訳 / )
Honest Ahanor | First Interview 🗣️
出典: Crystal Palace FC / YouTubeで見る
オネストアハノール(18歳・イタリア出身のディフェンダー)は、アタランタからクリスタルパレスへローン移籍することになった。
※ローン(レンタル)移籍は、所属先を変えずに一定期間だけ別のクラブでプレーする形のこと。
会社でいう出向に近く、期限が来れば元のクラブに戻る。
今回の移籍については少々ややこしい理由がある。
9月1日に、チェルシーが「2027年7月に加入する」事前合意を発表している。
つまり本人は今、アタランタ所属のままパレスにレンタルされていて、
来夏チェルシーの選手になる、という三者がらみの形。
なぜこんな形にしたかというと、
パレスはすでにチェルシーからアクセルディサシをレンタルで取っているから。
プレミアリーグには、同じクラブから同時に借りられるのは1人までというルールがある。
パレスはすでにチェルシーからアクセルディサシを借りているので、
アハノールをチェルシーの選手にすると2人目になり、貸し出せない、といった理由からだ。
通常のローン移籍は「活躍して次を勝ち取る」ためのものだと思うが、
彼はもう次(チェルシーへの移籍)が決まっている。
安心して伸びるのか、宙ぶらりんなのか。
パレスのサポーターは「来年いない選手」をどう応援するのか、が今後気になるところだ。
報道されているチェルシーへの移籍金は£40m前後(イタリア紙は追加報酬込みで4,600〜4,800万ユーロ)。
18歳のディフェンダーに、だ。
その値段で移籍した選手を£40m払わずに1年借りる側の気持ちとしては、
CBが怪我で少なくなっているクリスタルパレスにとって、
大きな才能も相まって期待は大きいはずだ。
※リアドは開幕のエバートン戦で膝の前十字靭帯を断裂し、今季絶望。
冨安もマンチェスターシティ戦で左足を気にして後半に交代している。
ただ、前述している通り「来年いない選手」なので、
成長させた分、その分をチェルシーが持っていくことになり複雑な気分だろう。
アハノール個人としては、一人イタリアから異国であるロンドンへ。
本人が聞かれてもいないのに言った「ここに一人で来て」という言葉は、
成功を収めたい覚悟と、まだ幼く一人という状況に慣れていない様子がうかがえる。
2008年2月23日生まれの18歳。
移籍により生活が全部変わることとなるが、
1年前にジェノアからアタランタへ移籍し、生活が変わりつつも昨季リーグ22試合出場。
2026年6月にはルクセンブルク戦でイタリア代表デビューも果たした。
家族のもとを離れ、異国の地ロンドンにてどんな活躍をするのか楽しみだ🔥
インタビューで気になったことは、
戦術も出場時間も契約の話も出てこないこと。
出てくるのは家族と情熱だけ。監督が「ピッチに立つ前に迎え入れてくれた」という順番だった。
あくまでも自分の考えだが、アハノールはチェルシーで成功したい為、
準備(ロンドンでの生活に慣れる)期間としてクリスタルパレスを選んだと感じる。
そのため選手として肝心な戦術が自分に合うかどうかや出場できるかどうかも触れなかったのかなと。
逆にクリスタルパレスとしては、一選手として成長してもらわなければ、CBが手薄なため困る。
そこで監督は早めに会い少しでも環境に慣れて欲しい、
選手として期待しているぞ、と意思表示したのかなと思った。
そんなクリスタルパレスは今季変化の年でもある。
昨年、クリスタルパレスはカンファレンスリーグで優勝した。
そのため、今年はヨーロッパリーグに出場する。
※ヨーロッパのクラブ大会は3階建てで、
上からチャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ、カンファレンスリーグ。
パレスは昨季いちばん下のカンファレンスリーグで優勝し、今季は一つ上のヨーロッパリーグに出る。
また今季から新監督として迎えたのはピエールサージュ(Pierre Sage)。
2026年6月にオリヴァーグラスナーの後任として就任したフランス人で、元リヨン監督だ。
つまり監督も、この夏プレミアリーグに来たばかりの新参者と言える。
「一人で来た18歳」と「初めてのリーグに来た監督」が同時に家族になろうとしている。
変わろうとしているクラブに、変わろうとしている18歳が来た、とも言える。
この変化の年のクリスタルパレスはどこまで飛べるのか。
日本人選手の鎌田と冨安の躍進も楽しみだ🔥
最後にアハノールの自己紹介について、書こうと思う。
第一声で出てきた言葉は「落ち着いている」だった。
ディフェンダーは相手の攻撃を止める役割。
落ち着いていることは、何よりも武器だと思う。
得点者は記録に名前が残るが、守備は「防いだ」ことが数字に残りにくい。
彼が最高の試合をした日ほどハイライトに映らないだろう。
ぜひ試合を見るときは、ボールを持って前に運ぶ力。
歩幅が大きく、後ろから一気に持ち上がるプレイ。
相手のプレッシャー(囲い込み)にも強いところ、を見て欲しい。
P.S.
アハノールはまだ18歳。最近イタリア国籍をとれた選手。
18歳までイタリア国籍が取れなかった。
イタリアの法律では、外国籍の親からイタリアで生まれた子供は成人するまで国籍を申請できないため。
その結果、イタリア年代別代表(U-17など)には一度も出られなかった。
それまでは両親のナイジェリア代表に行く可能性もあり、イタリア側が焦っていた、という文脈がある。
それほどまで騒がれた逸材アハノールは身長184cm、左利きのディフェンダー。
一言でいうと「左利きの、運べるセンターバック」CB、左SB、左ウイングバックもこなす。
憧れの選手はパオロマルディーニ。
長所
パスでラインを越えられる。短いパスの安定感に加え、サイドのスペースへ長いボールを通せる。18歳としてはかなり異例
インターセプト(パスカット)の読みが良く、しかも奪った後に蹴り出さず、最初のタッチで攻撃に切り替える
最初の5ヤード(数メートル)の初速が速く、体幹が強い
汎用性。システムに合わせて役割を変えられる
短所
右足がほぼ使えないため、プレーの選択が読まれやすい
空中戦が身長のわりに弱い。
跳び方と位置取りがまだ未熟 ※同じく高くないカンナバーロが克服した例がある
規律とファウルの多さ。コモ戦の退場もこれ
前に出過ぎることがあり、背後を味方に埋めてもらう場面がある
チェルシーで比較対象として挙げられているのはヨレルハト(チェルシーの左利きDF)。